浮世絵のジャンル

浮世絵には多種多様なジャンルがあります。
ここではそれらのジャンルの主なものを取り上げていきます。

美人画
女性の風俗や容貌などを描いた絵で草創期から終末までを通しての主要ジャンル。
初期はもっぱら遊女の姿を描いたものが多かったが、時代が進むに連れて茶屋の
看板娘や下町の女性なども描かれるようになった。

風景画
名所や都市、街道の風景などを描いたもの。江戸後期以降における主要ジャンル。

歌舞伎絵
歌舞伎に関して描かれたものの総称で役者絵や劇場図なども含む。
なお、役者絵には舞台の上の姿に限らず、風俗画などで人物の顔を役者の似顔にしたものもある。

武者絵

歴史上の英雄・豪傑・合戦場面、および武将に関連する故事・説話などを描いたもの。
幕府の禁令により、信長・秀吉以降の武人の描写は禁じられている。

花鳥画
花鳥並びに虫・獣・魚などを描いたもの。流派を問わず多数の絵師が手掛けている。

相撲絵
人気力士の姿や土俵上の取組み・日常生活を描いたもの。番付形式のものもある。

源氏絵
柳亭種彦(りゅうていたねひこ)作「偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)」の挿絵と図様に
題材をとったもの。内容は源氏物語を下敷きにした、室町御所の足利光氏(あしかがみつうじ)の
遊楽風俗などの描写が中心。

横浜絵
安政5年(1859)に開港した横浜の外国人居留地や西洋建築に港の様子、外国人の生活風俗
などを題材としたもの。万延元年から翌年の文久元年(1860〜61)がブームの中心期。

おもちゃ絵
玩具絵ともいう。子供が切り抜いて遊んだり、絵本として鑑賞したりする目的で作られたもの。
内容は「○○づくし」といった図鑑的役割を果たすものをはじめとして、絵双六・千代紙・着せ替え
組み上げ絵(台紙から切り抜いて組み立てるジオラマのようなもの)など種類は豊富。

死絵(しにえ)
歌舞伎役者や著名な浮世絵師が死んだ時に、命日・戒名・追善の歌などを添えて売り出す
追悼肖像画。浅葱色(水色)の着物姿のものが多いが、色が華やかなものでも死を暗示させる
形式をとったものもある。

張交絵(はりまぜえ)

一枚の紙面を大小異なる形で区切り、それぞれに別の絵を描いて組み合わせたもの。
貼交屏風(はりまぜびょうぶ)から考案されたもの。

子供絵
子供の遊戯の様子や、大人の風俗を子供に置き換えて描いたもの。通常大人は描かれない。
おもちゃ絵とは違い、大人が鑑賞するために作られたもの。

風刺画
時事・世相・政治などを風刺したもの。安政の大地震による混乱と直後の建設ブームをテーマにした
「鯰絵(なまずえ)」・幕末の世相を風刺して作られた「あわて絵」・戊辰戦争における新政府軍と旧幕府軍の
戦況の様子を子供同士の遊びになぞらえたものなどがある。

団扇絵(うちわえ)
団扇に貼るためのもの。
消耗品として使い捨てられてしまうため、残っているものは図柄の見本として、見本帳などに
綴じられていたものである。

疱瘡絵(ほうそうえ)
当時は治療不可能の病であった天然痘を少しでも軽く済ませる為の護符として出版されたもの。
疱瘡神が嫌うとされた赤色のみで鍾馗・金太郎・源為朝など、子供向けの人物が摺られている。

麻疹絵(はしかえ)
画中に麻疹にかからないための心得を記したり、麻疹を退ける護符としての役割をもつもの。

有卦絵(うけえ
陰陽道で九曜星を五行と方位に配し、これを干支にあて、暦に配当して7年を幸運の有卦、
5年を無卦の年として吉凶を判断するが、この有卦に入った人に対して祝いとして贈るもの。
有卦に入る人は頭に「ふ」の字のついたものを七種揃えて祝う事から、画中に「ふ」のつくもの
(福助・富士山・福寿草・福録寿・文(ふみ=手紙)・筆・船・袋など)を配する。

戯画・狂画(きょうが)
滑稽・諧謔・風刺的な内容を持つもの。人間の体を寄せ集めて顔にした「寄せ絵」・人間が動物や
虫などの形態模写をする様を描いた「身振り絵」・紐を一筆書きの要領で物の形にした「一筆画」
人や動物を文字の形に当て嵌めた「絵文字」・語呂合わせを絵にした「地口(じぐち)絵」などなど。

新聞錦絵

錦絵新聞ともいう。明治7〜14年(1974〜81)頃の間に出版された。新聞社との提携により
絵草子屋が新聞記事を錦絵にして売り出したもので、内容は殺人や情痴といった三面記事が
中心なため、美術的価値においては低く見られがちである。

摺物(すりもの)
自費出版の浮世絵版画。趣味人が新年に友人間に配ったものや、浄瑠璃や踊りなどの芸事、
役者などの襲名披露時に配ったりする。あくまでも私的なものなので採算を度外視し、精緻な
摺・彫は言うに及ばず用紙・絵具についても贅を尽くしたものが多い。

春画(しゅんが)
男女の性愛や交合を描いた絵。枕絵・秘画(秘戯画)などともいう。出版は禁じられてはいたが、
アングラで出版され、それゆえに高値で売れるため摺り・彫り共に精緻を尽くした作品が多く、
浮世絵版画の木版多色摺技術の最高水準を見る事ができる。なお、好色的ではあるが交合まで
いかない状況のもの(入浴シーン・浴後の涼み・着物の裾の乱れなどチラリズムなシーン等)を
春画とは区別して「あぶな絵」という。


参考文献: 「原色 浮世絵大百科事典」第三巻 1982年 大修館書店
        「浮世絵の極み 春画」 林 美一1988年 新潮社
        「図説 浮世絵入門」 稲垣進一1990年 河出書房新社
        「錦絵に見る病と祈り」展展覧会図録 1996 町田市立博物館
        「江戸の遊び絵」展 展覧会図録1998年 渋谷区立松涛美術館